バックナンバー 第151回~第160回

第151回 美術館の裏側を知りたい人にオススメ

オススメ本
  図書館司書 北井 由香
  私のオススメ
   『美術館っておもしろい!』
   
モラヴィア美術館著 
   河出書房新社 2020年5月発行

 世界には、沢山の美術館があります。みなさんも1度は足を運んだことがあることでしょう。この本は、そんな美術館の裏側について楽しく書かれています。 しかけ絵本のようになっていて、各ページに様々なしかけがあります。美術館に興味がない人でも、楽しむことが出来ると思います。
 内容は、どうやって企画展を開いているのか?どんな人たちがそれに関わっているのか?どうやって作品を手に入れるのか?など美術館の裏側を知ることの出来る内容になっています。私も美術館で監視スタッフのバイトをしていた時に、少しだけ美術館の裏側を見ましたが、企画展が企画されて観てもらうまでに想像以上に大変なことが沢山あるなというのが印象です。
 今、なかなか気軽に美術館に行けない状況ではありますが、この本を読むと次に美術館に行くときにまた違った目で作品を見ることが出来るのではないでしょうか。

 

第152回 夢を追い掛けている人にオススメ

オススメ本
  図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『バベル九朔』(角川文庫)

   万城目 学著 
   KADOKAWA 2019年2月発行

 主人公の満大(みつひろ)は、祖父の代から続く5階建ての雑居ビル「バベル」の管理人をしながら小説家を目指している青年です。ある日、全身真っ黒の衣装をまとった謎の「カラス女」が現れ、「バベルの扉はどこか?」と問い詰められ、追い掛けられます。意味が分からないまま、ビルの中のあるテナントに逃げ込んだ満大が、部屋にあった絵に触れると…何と行き着いた先は、別世界にある「バベル」でした。
 もう一つのバベルの中は、願ったことが何でも叶うという夢のような世界です。但し、「僕は、ここにいる」と口にしたが最後、二度と現実の世界には戻れなくなってしまいます。小説家という夢を追い掛けながらも、なかなか入賞を果たせず、挫折しそうになっている満大は、バベルの住人の言葉に誘惑され、小説家デビューした自分がサイン会をしている夢を見ます。あまりにも理想的な自分を見て、「僕は、ここにいる」と言いそうになる満大。彼は、現実世界に戻れるのか、最後までハラハラしっぱなしでした。
 私ははじめ、本書をパラレルワールドが舞台のファンタジーだと思って読み進めていたのですが、夢を追い、葛藤する満大の姿は、ファンタジーの世界の話ではなく、次第に現実で起こっている日常の話の一部として感じられました。
 きっと誰もが、満大のような「将来の夢」というほど大きくはなくても、「こんな自分になりたい」「こんなことしてみたい」といった目標や理想を持っているのではないでしょうか。そして、それを叶えようとする過程には、楽しいことばかりが待っている訳ではありません。夢を追うのか、それとも…。満大の姿に自分を重ねてしまう、そんな一冊だと思います。
 

第153回 お菓子が好きな人にオススメ

オススメ本
  図書館司書 野津 恵
   私のオススメ
   『まいにち食べたい“ごはんのような”ケーキとマフィンの本』

   なかしましほ著 
   主婦と生活社 2011年1月発行

 お菓子作りなんてめったにしない私ですが、シフォンケーキ作りにハマったことがあり、ひとり暮らしの激狭キッチンで毎日1ホール焼いては食べを繰り返していたことがあります。その時のレシピが、この本の著者であるなかしましほさんのレシピです。
 ネットでたまたま見かけたそのレシピを気が向いて作ってみたところ、上手く作れてしまい、味もシンプルで素朴、やさしい甘さで飽きないし、ふわふわの軽い食感で食べやすくてあっという間に1ホールを完食。あまりに好みのものが簡単にできてしまったことに驚き、それからしばらく毎日にように作っていました。卵白の泡立て加減で膨らみ方が変わったり、粉を混ぜすぎても混ぜなさ過ぎてもいけなかったり…とにかく奥が深い!同じ材料で作っても毎回様子が違うので(味はいつもおいしい)、それが楽しくて続けていたように思います。それと、バターを使わないレシピのため、後片付けが圧倒的に楽。油がしつこく残らないので、たくさんの洗剤を使ったり、根気よくこすったりせずに済んだのも繰り返し作りやすい理由のひとつでした。
 そんなレシピが詰まった素敵な一冊です。お菓子作りが好きな人にはもちろんですが、パラパラとめくって眺めているだけでもほっこりと少し幸せな気持ちになれるので、お菓子作りをしない人にもぜひ手に取ってもらいたいです。
 

第154回 「待つ」ことが出来ない人にオススメ

オススメ本
  図書館司書 北井 由香

   私のオススメ
   『「待つ」ということ』

   鷲田清一著 
   角川書店 2006年8月発行

 待たなくて待たなくてよい社会になった。
 待つことができない社会になった。

 待ち遠しくて、待ちかまえ、待ち伏せて、待ちあぐねて、とうとう待ちぼうけ。待ちこがれ、待ちわびて、待ちかね、待ちきれなくて、待ちくたびれ、待ち 明かして、ついに待ちぼうけ。待てど暮らせど、待ち人来たらず…。だれもが密かに隠しもってきたはずの「待つ」という痛恨の想いも、じわりじわり漂白されつつある。  
 こんな、まえがきからこの話は始まります。そして、気持ちや行動としての「待つ」だけではなく、様々な「待つ」について語られます。「待つ」ことは、祈ること、聴くこと、諦めること、期待すること、放棄すること、我慢すること…。 
 最初のまえがきにあった漂白されつつある「待つ」。私も例外ではなく、待ってくれない社会の中で、自分自身も待てなくなっています。時間通りにすすめられる物事、行き違いのなくなった待ち合わせ、その日のうちに来る返信、その日どころか、即座に来る返信。以前よりも生活は、はるかに効率化され、短縮もされ時間の余裕が出来たはずなのに、気持ちには余裕がなくなっていっているのを感じます。「待てる」自分になりたいと思いつつ、この本を読みました。皆さんは、「待つ」ことが出来ていますか?
 

第155回 ルームシェアをしてみたい人にオススメ 

オススメ本
  図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』

   藤谷千明著 
   幻冬舎 2020年9月発行

 本書はタイトル通り、オタク女子4人でルームシェアをした日々が綴られたエッセイです。 著者がルームシェアしようと思ったのは、長年一緒に住んでいたパートナーと別れたことがきっかけでした。一人暮らしになることへの経済的・精神的な不安を感じた著者は、今後の自分の生活をどうしていきたいかについて考えます。
 パートナー探しは億劫だし、実家には姉夫婦がいるので居場所がない…。そんな中で閃いたのが、家族や恋人に限定しなくても、趣味の傾向が似ている、気心の知れた相手(友人)と一緒に住めば、不安が減るのでは?という考えでした。
 本書では、メンバー募集~物件探し~実際の暮らしと、ルームシェア開始前後の過程が丁寧に描かれています。私は「旅行等で一時的に一緒に過ごすのと住むのとでは違うから、ぶつかることもあるのでは…?」と思いながら読み進めたのですが、実際はさほど大きなトラブルが起こることはなく、4人の間には、自分の時間を大切にしつつ、同居人との時間も大切にする「つかず離れず」の心地良い関係性があるように感じられました。
 個人で趣味や仕事に打ち込みつつ、皆で流しそうめんパーティーをしたり、病気になった人がいればサポートしたり、台風が来ると聞けば総出で備えをしたり…
 誰かと一緒に住んでいるからこそ生まれるエピソードの一つ一つが、愛おしく感じられる一冊です。
 

第156回 防災のことを知りたい人にオススメ

オススメ本
  図書館司書 野津 恵
   私のオススメ
   『4コマですぐわかる 新 みんなの防災ハンドブック』

   草野かおる著 
   ディスカヴァー・トゥエンティワン 2019年2月発行

 今年の3月11日で東日本大震災から10年が経ちました。10年前のその日、私は東京におり、大事な面接を前日に控えていたため気合を入れようと、住んでいた場所から少し離れたおしゃれスポットにある美容室で髪を染めてもらっていました。その最中、体験したことのない大きな揺れが起こり、お店に飾られていたガラスのビンが次々に棚から落ちて割れ、動揺したのを覚えています。どうにか施術をしていただき、まだここにいた方がいいんじゃないですか?と声をかけてくださる美容師さんに暢気に「大丈夫ですよ~」と言って駅に向かうと、電車は動いておらず、すごい人だかりで、とりあえず近くのカフェに避難しました。何時間か途方に暮れていましたが、以前バイトをしていたホテルにSOSの連絡をし、そこで一晩過ごさせてもらえることに。部屋のテレビで初めて地震の報道を見て、とても不安な気持ちでした。そして、次の日の早朝にやっと家に帰ることができました。
 そのような経験をした私にとって、今年の3月11日は改めて震災を振り返る日となりました。そのすぐ後に東北~関東で大きめの地震が起こったこともあり、改めて防災について考えたいと思って手に取った本がこちらです。本書は、防災士でイラストレーターの草野かおるさんが4コマのイラストで防災に関する知識やポイントを紹介しています。少し難しいと感じることも、優しいイラストでわかりやすく丁寧に書かれていますので、なんとなくでも防災のことを知っておきたいなと思う人にオススメです。
 

第157回 見て見ぬふりをするすべての人へオススメ

オススメ本
  図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『おれは無関心なあなたを傷つけたい』

   村本大輔著 
   ダイヤモンド社 2020年12月発行

 この本を最初に目にした時、まず、その書名にどきリとしました。著者である、村本氏がどのような活動をしているか知っていた私は、書名にある「あなた」は、自分のことだと即座に分かったからです。予想通り「あなた」は私のことで、この本に書かれている内容は、私の胸に突き刺さりました。
  私は、2年前にハンセン病療養所のある大島を訪れました。あの時の衝撃は、今でも忘れることが出来ません。島に足を踏み入れた瞬間から島を出るまで、終始鳥肌が立っていました。訪れたその日は、初夏で暑い日だったにもかかわらず、私はぶるぶる震えていました。この時の感覚は、言葉では到底言い表すことが出来ません。ハンセン病のことを何一つ分かっていなかったことを突き付けられた日でした。
  この本で村本氏は、在日問題、原発問題、被災地問題等について実際にその場を訪れ、その問題に直面している人、そこで生活している人たちの声を聞いて、そこに確かに存在する問題を言葉にしています。テレビや新聞で報道されず、取り上げられもせず、「あるもの」が「ないもの」にされ蓋をされている事実を。
  私は、この本を読んで大島を思い出しました。知っているようで知らなかったことばかりでした。否、知ろうとしていなかったことばかりでした。
 

第158回 変わった旅行記を読みたい人にオススメ

オススメ本
  図書館司書 野々村 佳緒里
   私のオススメ
   『行った気になる世界遺産』

   鈴木亮平著 
   ワニブックス社 2020年9月発行

 この本は、世界遺産検定の1級を所持しているという俳優の鈴木亮平氏が豊富な世界遺産の知識とそこでの体験をもとに書いた旅行記…ではありません。
 この本の最後にはこのように書かれています。

 実際の旅行記ではないため、妄想部分が多々含まれます。
 掲載した世界遺産は実在しますが、記述については行ったことのない鈴木亮平の想像によるものです。
 行ったことのない人が、行った気になって書いた本です。
 私はこのことを知っていてこの本を読んだのですが、本当に訪れたことがないのだろうかと疑いたくなるほど、紹介されている遺跡の描写はもちろん、現地の街並みや空気感などが細かく書かれています。現地で出会った(?)人も登場します。
 想像であっても、鈴木氏の知識と世界遺産への熱い思いが感じられ、紹介されている世界遺産だけではなく、その土地のこともちょっと好きになれるそんな1冊です。
 

第159回 あたたかな気持ちになりたい人にオススメ

オススメ本
  図書館司書 野津 恵
   私のオススメ
   『LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん。』

   飯島奈美著 
   東京糸井重里事務所 2009年3月発行

 みなさんは、フードスタイリストという職業を知っていますか?フードスタイリストとは、テレビや映画、広告などに使われる料理の演出を手がける人です。これは、そのフードスタイリストの飯島奈美さんが書かれたレシピ本です。紹介されている料理にシチュエーションが添えられているところが、他のレシピ本とは違い、ちょっと面白いところだと思います。例えば、p.14の「ふたりぶんの朝ごはん」。
 「いっしょに暮らしはじめたふたりの、はじめての朝ごはんという想定です。すごく気負ったものをつくるのではなく、「いつものごはん」だけれど、めいっぱいおいしくつくりたい。そんな気持ちを込めました。」(本文p.16から抜粋)
 どんな朝ごはんのレシピかは、ぜひ本を手に取って見てみてください。料理の先にいる『誰か』を想像しながら少しあたたかな気持ちになれる、素敵なレシピ本です。  
 

第160回 自分の未来を知りたい人にオススメ

2021.7
  図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『あなたの本』

   誉田哲也著 
   中央公論新社 2014年12月発行

 あなたは、あなたの決められている未来について書かれている本があったら、その本を読みますか?
 『あなたの本』という、自分の未来について書かれた本を父親の書斎で見つけた主人公。しかし、彼は、その本を読まない選択をします。その代わり、時々、過去を思い返し、確かめるようにその本を読むのです。未来を知ることを拒んだ彼に起こったこととは?最愛の妻を亡くしてしまった彼の本には、最後にとんでもないことが書かれていたのです。
 あなたなら、人生のカンニングをしますか?しませんか?