バックナンバー 第141回~第150回

第141回 幸せについて考えたい人にオススメ

ライオンのおやつ
   図書館司書 野津 恵
   私のオススメ
   『ライオンのおやつ』

   小川糸著 
   ポプラ社 2019年10月発行

 「人生の最後に食べたい“おやつ”はなんですか」という帯の文章から、人生最後の食事は何食べたいかという話題で盛り上がったことはあるけれど、人生最後のおやつは考えた事がないなぁと思いながら本書を手に取りました。
 主人公の雫は、末期の病に侵され、その残りの人生を瀬戸内海のとある島にある『ライオンの家』というホスピスで過ごすことを決めます。ホスピスとは、病による心身の痛みや苦しみを緩和し、残された時間を充実させ心静かに最期を迎えることができるようにお世話をする施設です。そのホスピスである『ライオンの家』には、入居者がもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできるおやつの時間があり、主人公はなかなかそれを決めることができないまま、『ライオンの家』で日々を過ごしていきます。
 私は、本書を読んで、主人公が人生の最期に向かって死を受け入れていく姿が印象に残りました。日常を過ごす主人公に唐突に表れた、どうしようもなく、抗うことができない死という大きな自然の摂理を前に、主人公は怒り、落胆します。しかし、ライオンの家での出会いやそこで過ごす穏やかな日々の中で、徐々にそれを受け入れていくことができるようになっていきます。そんな主人公の姿から、死に向かうことは、社会で生きていくために身につけた鎧をひとつひとつ脱いで、そして、また素直で無垢な子供のような存在になって、自然の流れの一部に戻るという過程なのかもしれないと感じ、また、そのように自然な最期が迎えられたら幸せだろうと、主人公が感じた幸せの端っこを一緒に噛みしめる気持ちになりました。
 主人公が迎えた人生最後のおやつの時間を、ぜひ一緒に味わってみてください。

第142回 悩みを抱えている人にオススメ

ライオンのおやつ
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『14歳、明日の時間割』

   鈴木るりか著 
   小学館 2018年10月発行

 出てくる主人公は、みんな14歳。それぞれに悩みや問題を抱えながら生きています。しかし、その悩みを、同級生の中原くんが、実に見事に鮮やかに、思いもよらない方法で解決してくれます。否、問題の本質に気付かせてくれると言った方が正しいのかもしれません。
    例えば、東京に転校することになってしまった坪田くん。本当は転校したくない。中原くんの提案が坪田くんを救います。坪田くんは「その夜は久々にぐっすりと眠れた。安堵感が体の細部にまで広がる。肉親以外の人が、ここまで思ってくれるのは初めてだ。それがどんなに心を強くするか知った」(p.107から抜粋)果たしてどんな案で、坪田くんを救ったのでしょう。
    みなさんの中に解決することない悩みや問題を抱えながら日々を生きているという人はいませんか?解決しないから、ずっと抱えてしまう。そんな人に是非読んで欲しい本です。あなたが今、抱えているものが、全く違ったものに見えてくるはずです。
   そして、色々な事を知って知識を深めることがいかに大切なのかもこの本を読めば、きっと分かると思います。人生に絶望した時に、あんなことや、こんなこと、そんなことを知っていれば救われた気持ちがあるはずです。心が知識に救われることは、絶対にあります。その答えは、この本の中にもあります。
    14歳の著者の思慮深さに脱帽。物語の深さに涙しました。是非、読んで欲しい1冊です。

 

第143回 くいしんぼうな人にオススメ

おべんとうの時間
   図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『おべんとうの時間』

   阿部 了 写真 阿部 直美 文 
   木楽舎 2010年4月発行

     本書は、写真家の阿部了さんが、日本全国の色んな人々のお弁当を訪ね歩いた記録です。私は初め「自分のお弁当のおかずの参考にしたい」と、料理のレシピ本を読む時のような感覚でページをめくっていたのですが、途中でその考えを改めました。なぜなら、本書のもう一つの魅力に気付いたからです。それは、お弁当=その人の人生を映す鏡であるということです。
 例えば、冒頭で登場する男性は、各乳牛農家を回って牛乳を集める仕事をされている方です。仕事の合間にさっと食べられるようにと、お弁当はシンプルに、大きなおにぎり一個だけ。早朝に出勤するので、奥さんに作るのをお願いするのは申し訳ないと、毎朝ご自分で握っておられるそうです。一個の「おにぎり」から、その人の普段の生活が見えてきて、何だかショートムービーを見ているような感覚を覚えました。
 その他にも、みかん農家、ラジオパーソナリティ、製菓工場の作業員、おばあちゃん、幼稚園の男の子…等々、様々な職業、立場の人がお弁当と共に登場します。お弁当の話題をきっかけとして、その人の仕事に対する姿勢や、家族とのエピソード、人柄等が見えてきて、どんどん引き込まれていきます。少しおおげさかもしれませんが、お弁当は、その人の名刺代わりといっても過言ではないかもしれません。
 皆さんも是非、お弁当から広がる色んな人生を覗いてみませんか?
 

第144回 コミュニケーションについて考えたい人にオススメ

わかりあえないことから
   図書館司書 野津 恵
   私のオススメ
   『わかりあえないことから:コミュニケーション能力とは何か』

   平田オリザ箸 
   講談社 2012年10月発行

   この本は、わかりあうということに重点が置かれた日本のコミュニケーション教育に疑問を持った筆者が、わかりあえないことから始まるコミュニケーションについての考えを書いたものです。筆者は劇作家であり大学教員として教育にも携わっているため、日本の教育現場の現状や日本語の特徴や会話の組み立てなどを取り上げ、非常に読みやすく書かれています。例えば、
 企業が新入社員に求めるコミュニケーション能力は、異なる文化や価値観を持った人に対しても自分の主張を伝えることができたり、文化的な背景の違う人の意見もその背景を理解し、時間をかけて説得・納得し妥協点を見出すことができる「異文化理解能力」と、「上司の意図を察して機敏に行動する」「会議の空気を読んで反対意見は言わない」「輪を乱さない」といった、日本社会における従来型のコミュニケーション、その矛盾した二つの能力を求められている。(中略)このようなコミュニケーション能力に関するダブルバインドが社会全体に広がっていることが、日本社会を内向きにさせている原因ではないか。(本文p.16)
 最近の子どもたちはコミュニケーション能力が低下しているといわれているが、実際は、少子化や核家族で他者のいない状況に加え、わかりあう・察しあうといったコミュニケーションで育てられたため「伝わらない」という経験が不足しており、「伝えたい」と思う気持ちを持つことがない。その中で「伝える技術」だけを教えても定着しないため、「伝えたい」という気持ちを引き出す経験が大事。(本文p.25)
 などなど、筆者の意見になるほどなと感じる部分が多く、私自身、社会人になって、職場の上司や先輩にうまく意見が言えなかったり、意図を正確に伝えられなかったりしたときに、自分がコミュ障だから…、語彙力がないから…とできない自分を責めて落ち込むことがありましたが、この本を読んで、こういった悩みを少し俯瞰して考えられるようになりました。
 これから、新しい環境・新しい人間関係の中で生活を始める人も多いのではないかと思います。もしコミュニケーションに悩んだとき、この本を思い出して手に取ってもらえたら嬉しいです。

 

第145回 次に読む本に悩んでいる人にオススメ

オススメ本4月
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『次の本へ』

   苦楽堂編 
   苦楽堂 2014年10月発行

   みなさんが読む本、その本を読むきっかけは何ですか? 「本屋さんや図書館で見つけて面白そうだったから」「友人に勧められたから」「好きな著者だから」「映画を見て原作を読んでみたくなったから」「課題図書だから仕方なく」等々、理由はそれぞれあると思います。
   この本は、様々な人が、「読んだ本」「次に読んだ本」の2冊を紹介しています。つまり、次に読んだ「次の本」とその本を読むきっかけになった「きっかけの本」の紹介本です。意外な本に辿り着いたエピソードや、次に読んだ本が、面白くなかったエピソード、何年も経ったあとに2冊の本が結びついたエピソード等々、どのエピソードも面白く読みました。
  私は、以前にここで『旅をする木』という本を紹介しましたが、偶然にも本書の続編である、『続次の本』では、『旅をする木』を読んで『アルケミスト』という本に出会ったエピソードが書かれていました。「その生き方への憧れが(旅をする木)あの小説(アルケミスト)に出会わせたのだろう」とその人は、言っています。私も『アルケミスト』を読んでみたくなりました。
  みなさんも、この本を読んで次の本を見つけてみませんか? 

第146回 美しいものに惹かれる人にオススメ

オススメ本5月
   図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『文豪たちが書いた耽美小説短編集』

   彩図社文芸部編 
   彩図社 2015年10月発行

    本書は、芥川龍之介や江戸川乱歩等、名だたる文豪たちが書いた、耽美小説を収録したものです。
 今回はその中でも、特に印象的だった谷崎潤一郎の「刺青」に焦点を当て、ご紹介したいと思います。
 「ぞっとするほど美しい」-この作品には、この言葉がぴったりだと思いました。
 主人公の清吉は、腕の立つ若い刺青師(ほりものし)です。ただ彼は、頼まれれば誰にでも刺青を施す訳ではありませんでした。自分が惹かれるほどの美しい皮膚と、骨組みを持つ人にしか刺青を入れないと、心に決めていたのです。
 そんな清吉は、自分の理想の美しい体を持つ女性に、刺青を通して、自分の魂をその人の体に入れ込むのを熱望していました。そんな美女との出会いを長年待ち続け、彼はとうとうその美貌を持つ娘に出会います。奉公している遊郭のお使いで来た娘に「お前を立派な器量の女にしてやるから(帰らずに待ちなさい)」と言う清吉の言葉は、どこか不気味ですがとても美しい響きに感じられました。
 清吉の夢は、果たして叶えられたのでしょうか。物語の最後に、娘が清吉に掛けた言葉の中に、その答えがあります。気になった人は、是非読んでみて下さい。  

 

第147回 夏の夜にヒンヤリした気分になりたい人にオススメ

オススメ本5月
   図書館司書 野津 恵
   私のオススメ
   『姑獲鳥(うぶめ)の夏』

   京極夏彦著 
   講談社 1994年8月発行

   じめじめした蒸し暑い日が続くようになりました。これから夏に向けて気温もぐんぐん上がり、暑くてなかなか寝付けない夜を過ごすこともあるのではないでしょうか。そんな時、読むと少しヒンヤリした気分になれる一冊を紹介します。
 本書は、古本屋の主人にして憑物落とし専門の神主である京極堂が個性的な友人達と共に、妖怪を彷彿とさせる不気味な事件を解決していく人気シリーズの第一作目です。妖怪?不気味?表紙も気持ち悪いし、ちょっと怖いかも!と思うかもしれませんが、主人公の語り口や登場人物のやり取りが痛快で、笑える場面もあり、話も長めですが、最後まで飽きずに読むことができます。
 私がこの本に出会ったのは中学生のとき、少し年上の友達に勧められたことがきっかけでした。上下二段組で書かれていて厚みのある本が大人っぽくて、少しどきどきしながら読んだ思い出があります。この本でミステリーにドはまりし、読む本の幅が広がったり、本好きの友達が増えた思い出深い一冊です。
 少しヒンヤリできる理由は、この物語の謎解き部分にあります。ぜひ熱帯夜に、冷房をガンガン効かせた部屋で読んでみてください。この物語にどっぷり浸かることができると思います。紹介しているものはノベルズ版ですが、文庫版もあるので、気軽に手に取ってもらえると嬉しいです。  

 

第148回 友達のことをもっと知りたい人にオススメ

7月
   図書館司書 北井 由香
     私のオススメ
   『異教の隣人』 釈徹宗 他著 

   晶文社 2018年10月発行

 この本は、日本に住んでいる異教の人たちを取材した本です。特定の人を取材対象にしたのではなく、特定の場所に訪れて、そこにいる人たち、 そこに来た人たちに取材をしたものです。その場所は、例えば、モスク、寺院、シナゴーク(礼拝所)、修道院、教会、外国人墓地等々、信仰共同体の場や祈りの場です。  
 異教と一口に言っても様々な異教がありますが、ここで取り上げてあったのが「イスラム教」「ジャイナ教」「ユダヤ教」「台湾仏教」「シク教」「ベトナム仏教」「ヒンドゥー教」「韓国キリスト教」等  
  読んだ感想は、とにかく面白い。そして、分かりやすい。それぞれの宗教で大切にされていること(食事、服装、言語、作法、建築など)が、私にとっては、新しく知ることがほとんどだったので面白く、そして、日本の社会の中で、その人たちが自分の宗教を信仰しながら、どのように暮らしているのかがとても分かりやすく取材されていました。
 その中で私が気付かされたことは、自分の周りにいる大切な人たちも、異教の隣人のようなものだということです。食べ物の好みも違うし、好きな服装も違う、考え方も違う、日常の習慣も違う、大切にしているものも違います。時に自分には理解が出来ないようなことも起こります。けれど、相手のことが大切だから理解しようとするし、その中で共通点も見つけながら関係を紡いでいく、大切な人たちとの付き合いは、その繰り返しなのだと思います。
 自分の周りの大切な人のことをもっともっと知りたくなったらこの1冊。  

第149回 自然を感じたい人にオススメ 

7月
  図書館司書 古德 ひとみ
    私のオススメ
  『森のノート』

  酒井駒子著 
  筑摩書房 2017年9月発行
   

 本書は、絵本作家の酒井駒子さんによるエッセイ集です。『森のノート』とタイトルにある通り、森や山、川等、著者が身の回りの自然の中で過ごした記録が綴られています。読み進める内、だんだん自分も本の中に出てくる自然の中にいるような気がして、とても心地よく感じられました。

 色んなエピソードが収録されているのですが、その中でもおすすめなのは、著者が「山の家」(とその周辺)で過ごした時の様子を書いたエッセイの数々です。
 一緒に連れて来た飼い猫が庭で楽しそうに虫を追い掛ける様子を観察したり、雪が積もった朝に、動物の足跡を追いかけて近くの森の奥に入っていったり、暖かい日に、おにぎりとお茶を持って森に遊びに行ったりと、著者の日常そのものが自然の中に溶け込んでいる気がして、何だかとても羨ましくなりました。
 ただその一方で、冬を越せなかった動物たちの亡骸や、飼い猫の手に掛けられてしまった虫を発見する場面が登場します。瑞々しい自然の中に垣間見える死が、本書に程良い陰影を与えているように思います
 エッセイの一つ一つに添えられたどこか寂し気なイラストも合わせて、味わい深い1冊だと思います。夜眠る前に一編ずつ読んでいくのがおすすめです。  

第150回 芸術の秋をお家で楽しみたい人にオススメ 

法王庁の避妊法
  図書館司書 野津 恵
   私のオススメ
   『法王庁の避妊法(戯曲)』

   飯島早苗・鈴木裕美著 
   論創社 2007年5月発行
    

 7月頃まで図書館で行っていた「日本の戯曲を読んでみませんか?」という展示で紹介しきれなかった本があり、心残りなので、こちらで紹介させていただきます。この戯曲は、女性の排卵の法則を世界で初めて発見し、「オギノ式」といわれる避妊法が生まれるきっかけになった産婦人科医で医学博士の荻野久作氏の物語を基に書かれたものです。「オギノ式」は、自然に逆らわない避妊法として、人工的な避妊や中絶を忌避するカトリック教徒のローマ法王庁が初めて認めた避妊法だそうで、このタイトルはそこから来ています。その荻野氏が奥様と出会い、また、産婦人科医として患者さんと接する中で、研究を達成させるまでを描いています。

 戯曲なので、中身は主に会話が書かれています。会話だけだと、読んでいて少し疲れやすいこともありますが、こちらはテンポの良くて読みやすいです。内容も全体的にほのぼのとしたコメディで、その中に女性として考えさせられる部分もあり、楽しんで読むことができました。
 芸術の秋になりましたが、なかなかおでかけする気分にもなれない今、お家で読む演劇に触れてみるのはいかがでしょうか?図書館には、この他にも読みやすい戯曲が増えましたので、ぜひ見に来てください。