バックナンバー 第121回~第130回
第121回 最近、本屋さんに足を運んでいない人にオススメ
図書館司書 北井 由香
私のオススメ
『あるかしら書店』
ヨシタケシンスケ著
集英社 2017年6月発行
私は、ここ数年、本屋さんに足を運ぶ回数がかなり減りました。と言うのも欲しい本は、専ら、webストアで購入してしまうからです。昔は、本屋さんに行くのが大好きで、何時間もいて、どんな本があるのかな、とただ見ているだけでワクワクしていていたのに、それが今は、ついつい便利な方に流されています。そこで、そんな人に読んで欲しい本が「あるかしら書店」です。
今回、私が紹介するこの本は、タイトル通り書店のお話です。色々なお客さんが色々な本を探して書店にやって来ます。「ちょっとめずらしい本」「本にまつわる道具」「本にまつわるイベント」等々こうやって文字にしてしまうと、ごく普通の本のように思えるかもしれませんが、いいえ全く違います。店主が出してくる本は、とにかくユニークで奇想天外な本ばかり。こんな本は、絶対にないだろう、けどあったらすごく面白いだろうな、次は、どんな本が出てくるのだろう、この本を読んで昔に本屋さんで味わったあのワクワクを思い出しました。
子どもの頃は、こんなこと絶対にないだろうって思うことが少なかったのに、歳を重ねて様々な経験をして、こんなこと絶対にないだろうって思うことが多くなっていき、発想も乏しくなっているのを痛感しました。たまには、この本にあるような妄想をして楽しむことも必要かもしれませんね。
さて、最後に出てくる「大ヒットしてほしかった本」は、本を書く人、売る人の思いを本から聞くことが出来る本です。ユーモアの中に切なさがあって、私はこの本が1番好きかもしれません。けれど、実はどの本もこの本に違いないのです。本に耳を当てて、その声を聞いてみてください。どんな声が聞こえてきますか?
第122回 発想の転換をしたい人にオススメ
図書館司書 古德 ひとみ
私のオススメ
『ぼくを探しに』新装版
シェル・シルヴァスタイン 著 倉橋 由美子 訳
講談社 1979年4月発行
皆さんは、自分の「長所」を聞かれた時に、すぐに答えられますか?「短所ならすぐに言えるけど…」という人が多いのではないでしょうか?
本書の主人公の「ぼく」は、表紙の絵を見ると分かるように、ボールのような丸い体の一部が、ちょうどぱっくり口を開けたかのように欠けています。また、そんな「ぼく」は、自分に欠けている所があるから「今が楽しくない」のだと感じていました。その為、自分にぴったりはまるかけらを見つけに、ころころと転がって旅に出ることにしました。
「ぼく」は旅をする中で、色々な経験をします。みみずとおしゃべりをしたり、花の匂いを嗅いだり、かぶとむしを追い越したり追い越されたり。そして遂に、自分にぴったりはまるかけらに出合います。完全な球体になった「ぼく」は、体に凹みがあった以前とは違い、かなり転がりやすくなりました。しかし、そのおかげで「出来ないこと」も出てきてしまいます。それは例えば、「寄り道」です。スピードが出すぎてしまい、途中で立ち止まれなくなった「ぼく」は、みみずとのおしゃべりや、花の匂いを嗅ぐこと等が出来なくなってしまったのです。
私は、そんな「ぼく」を見ていて思うことがありました。それは、自分が思っている「短所」は、本当に短所なのだろうかということです。「ぼく」に当てはめて考えてみると、「欠けていること」は、確かに上手く転がれないという不便さを生んでいました。しかし、これを「欠けているからこそゆっくり転がれる(寄り道が出来る)」と捉えれば、そんなに悪いことではないように感じられたのです。
このように、捉え方次第で、自分が短所だと思っていたことが「実はそうじゃないかもしれない」という気付きに変わることを、本書は教えてくれました。人間どうしても短所に目が行きがちになりますが、一度立ち止まって考え直す時間を、意識的に作ってみてはどうでしょうか。
転がりやすくなった「ぼく」がその後どうなったのか、是非本書を読んで確かめてみて下さい。
第123回 あまり辞書を使わなくなった人にオススメ
図書館司書 馬庭 佳緒里
私のオススメ
『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』
サンキュータツオ著
KADOKAWA 2016年11月発行
みなさんが使っている国語辞典は、どの出版社のものですか?
なぜその国語辞典を選びましたか?学校の指定図書だったから、デザインにひかれたから、なんとなく手に馴染んだからなど様々な理由があると思います。
では、国語辞典の特色や内容に惹かれたからという人はいるでしょうか。少数派ではないかと私は思います。 しかし、本書の著者サンキュータツオ氏は違います。辞書にはそれぞれ特色(著者によると「辞書の個性」)があり、その個性に魅了され、国語辞典を読み比べたという辞書オタクです。
まず、辞書は「引く」ものだと思っている私からすると、辞書を「読む」ということ自体とても不思議な感じがします。もちろん同じ言葉を引いた場合に、辞書によって説明や用例に違いがあることは想像が出来ます。しかし、個性と言えるものなのかと…
そんな気持ちで読み進めていきましたが、読み終えると確かにそれぞれの辞書の「個性」が見えてきました。また、辞書と聞くと堅物なイメージですが、この本で辞書のユニークな面を知ったことにより辞書に対して持っているイメージが少し和らいだ感じがします。
本書には、「バランス感覚がすごい!優しい副委員長的存在」の辞書や「誰よりも一番あなたのことを考えてくれている」辞書など個性豊かな辞書が登場します。お気に入りの1冊を是非探してみてください。
第124回 マナーを知りたい人にオススメ
図書館司書 北井 由香
私のオススメ
『考えるマナー』
中央公論新社編
中央公論新社 2017年1月発行
マナーとは、態度、礼儀、礼儀作法のことですが、実は、それについて書かれている訳ではありません。「〇〇のマナー」として、作家、俳優、歌人、哲学者、エッセイスト、ミュージシャン等々、様々な分野で活躍している人たちが、そのテーマに対してのこだわりや持論を書いています。書かれているマナーを簡単に紹介しますと、「端正のマナー」では、感情を表に出さないことが、その人の品格を保つことになる。「逃げ方のマナー」では、逃げてもいい、けれど逃げたことを逃げてないことにしない。「距離感のマナー」では、距離感の達人に出会った。その達人技について。この他にもまだまだ沢山のマナーがありますが、どれも面白く、何気ない出来事をこんな視点でこんな風に捉えることができるのかと思うようなマナーばかりでした。
その中でも私が一番心に残ったマナーは、「見ぬふりのマナー」見てみぬふりをするのと、見ぬふりをして見るのは、同じことのように聞こえるけど、そこには、並々ならぬ温度差があるという話。確かにその気持ちを考えてみると、見て見ぬふりは、そのことに向き合わず目を背けている印象、見ぬふりをして見るのは、実は、きちんと向き合っている気がします。子育てや介護の世界では、この見ぬふりをして見るということが改めて見直され始めているようです。
みなさんもこの本の中に、心に残るマナーがきっとあるはずです。探してみてはいかがでしょうか。「時間の経過のマナー」で書かれていた言葉です。「人は変わるし、その間のマナーも変化する。時間が経つとわかる。その時がすべてではなく、人生にはその後もある。そういうことに思いを馳せる時に、大人になったことの贅沢を最も感じる」
今という時間は、すごく大切ですが、今は過去のためにも、未来のためにもあるものだと思います。ようやくその事が分かって来ました。そのことを大人になったことの贅沢だと感じることが出来るような人になりたいです。おススメの1冊です。
第125回 変身願望がある人にオススメ
図書館司書 古德 ひとみ
私のオススメ
『西の魔女が死んだ』
梨木 香歩著
新潮社 2001年8月発行
皆さんは、何度も読み返したくなる本に出合ったことはありますか?今回は、私にとってのそんな一冊を紹介したいと思います。
中学校に上がってすぐのこと。主人公のまいは、ぜんそくで休んだことがきっかけで、学校に行けなくなってしまいます。そんな中、母の提案でまいは、母方の祖母と暫く一緒に暮らすことになりました。
一緒に暮らし始めて少し経った頃、おばあちゃんはまいに打ち明けます。自分が実は「魔女」なのだと。これを聞いたまいは、自分も魔女みたいに不思議な力が使えるようになるにはどうすれば良いかと尋ねます。これに対しておばあちゃんは、早寝早起きをして、食事をちゃんと摂り、よく運動をするという「規則正しい生活を送ること」だと答えます。一見、魔女の力とは関係ないことのように感じますが、おばあちゃんは(規則正しく生活をすると)「自分で決めたことをやり遂げる」意志の力を養うことが、魔女になる為には欠かせないことだとまいに説くのです。
昔この場面を読んだ時は、どこか腑に落ちませんでした。何かの儀式をするとか、厳しい修行をするとか。そんなもっと特別なことをしないと、魔女にはなれないと思ったからです。しかし、大人になるに従って、まいのおばあちゃんの言葉の意味が分かってきたような気がします。物事を自分で決めて、それを最後まで続けることは、かなり根気の要ることです。目標を達成するまでの過程では、きっと楽しいことだけではなく、辛いこともあるでしょう。でも例えそんな場面にぶつかっても、やっぱり諦めずに続けてみようと思うのは自分の「意志の力」が成せることではないでしょうか。もちろん、周りに応援してくれる人はいるかもしれませんが、「なりたい自分」になる為にどう行動するかは、全て自分にかかっているのだと、大人になった今読み返してみて、そう強く感じました。
自分の意志次第で、もしかしたらどんな人にだってなれるかも・・・?そう思わせてくれる、オススメの一冊です。
第126回 うるっとする作品を読みたい人にオススメ
図書館司書 馬庭 佳緒里
私のオススメ
『本バスめぐりん。』
大崎梢 著
西村弘美 ブックデザイン
西脇エリ イラストレーション
東京創元社 2016年11月発行
本書は、移動図書館「めぐりん号」を取り巻く人々の心温まるエピソードがつまった作品であるとともに、生きていくことや働くことについて考え、清々しい気持ちになれる物語だと思います。
定年退職後、めぐりん号の運転手になった久志。今までの仕事とは何もかも違う移動図書館の仕事に戸惑いながらも、40歳近く年下の上司で司書の菜緒子と利用者のために、どんな日でも本を届けています。
私は、読んでいてこの2人の相性の良さに惹きこまれました。菜緒子は、一生懸命過ぎて周りが見えなくなるタイプ、それを理解して「自分を抑えて待つ」ことも大切だと伝える久志。全く性格は違いますが、どちらも利用者の変化に敏感に気が付き、解決のために奮闘します。そこまでする必要があるのかという面もありますが、移動図書館は普通の図書館とは違い3000冊しか積むことが出来ません(めぐりん号の場合)。その蔵書の中でいろいろな利用者に満足してもらうためには、利用者との会話も大切な仕事なのだと思います。
ただ、久志は「どんな職業でも人間関係からは離れられない」と言っています。移動図書館だけではなく、確かにどの職業にも通じることだと思います。
一生懸命頑張ることはもちろん大切ですが、たまには少し落ち着いて物事を考えてみることも必要だと感じさせてくれます。そんな時間が欲しい人は、ぜひこの本を読んでみてください。
第127回 アラスカに行ってみたい人にオススメ
図書館司書 北井 由香
私のオススメ
『旅をする木』
星野道夫 著
文藝春秋 1999年3月発行
「頬を撫でてゆく風の感触も甘く、季節が変わってゆこうとしていることがわかります。アラスカに暮らし始めて十五年がたちましたが、ぼくはページをめくるようにはっきりと変化してゆくこの土地の季節感が好きです。 人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。」(本文p.12-13)
私は、この文章に惹かれて、この本を読み始めました。星野さんは、写真家です。19歳のときに神田の洋書専門店で購入したアラスカの写真集を見たことがきっかけで、アラスカに移り住み、43歳のときに、ヒグマの襲撃に遭い亡くなるまで、アラスカを中心に野生動植物や、そこで生活する人々の写真を撮り続けました。
この本を読んでいると、なぜ人は生きているのか、その意味や答えが分かるような気がします。どの文章も、暖かくて心地良くて癒されます。読んでいると幸せな気持ちになり、まるで文章に包まれているような気持ちになるから不思議です。おすすめの1冊です。
第128回 地元が好きな人にオススメ
図書館司書 古德 ひとみ
私のオススメ
『悠遊大山』
松下 順一 著
米子今井書店 2000年4月発行
鳥取県には「伯耆富士」と呼ばれる「大山(だいせん)」があります。鳥取県民、特に大山が位置する県中西部に住んでいる人にとっては、とても馴染み深い山だと思います。かく言う私自身にとっても、小さい頃から何度も出掛けたことのある、思い出がいっぱいの山です。本書は、この大山を度々訪れている著者が、その時の出来事を自身のスケッチと共に綴ったものです。
著者は、季節の移ろいと共に変化する様々な大山を楽しむ達人です。例えば春は、大山で収穫したフキノトウを、その場で天ぷらにして食べたエピソードについて語られています。取りたてほやほやの新鮮な内に油で揚げて、山の空気と共にいただく所を想像しただけでお腹が空いてきます。遠足やピクニックに出掛けた時の、外で食べるご飯のおいしさを改めて思い出しました。
また、そんな暖かい春とは真逆の冬に、大山をスキーで下山しながら関金温泉を目指した思い出も綴られています。途中でお酒を飲んで暖を取りながら、ゆったりと雪で真っ白になった大山の景色を楽しむ姿は、とても魅力的に感じられました。
私は本書を読んで、慣れ親しんだ大山の色んな楽しみ方を知ることが出来ました。そしてこれからも、自分の知らない大山の魅力を沢山見つけていけたら良いなと思います。 本書は、大山に行ったことがある人にはもちろん、行ったことがない人にもおすすめの一冊です。ページを捲りながら、自分の地元の好きな風景を思い浮かべてみてはどうでしょうか。
第129回 英米文学を読む機会が少ない人にオススメ
図書館司書 馬庭 佳緒里
私のオススメ
『恋する世界文学』
佐藤真由美 著
集英社文庫 2011年4月発行
『ティファニーで朝食を』、『自負と偏見』、『嵐が丘』、『武器よさらば』、『シェリ』。
みなさんは、この中で読んだことのある作品はありますか?
私は、書名についてはすべて聞いたことがありますが、実はちゃんと読んだことのない作品もあります。本書は、私のように書名を聞いたことはあっても読んだことがないという人におすすめの本です。
「恋する」とあるように様々な恋が題材となった世界文学が取り上げられています。作品について、著者の経験や現代のリアルな恋愛観などが絡められ、内容や魅力的な人物について紹介されています。紹介されている恋愛観については、共感する部分もあれば、もちろん理解出来ないエピソードもありますが、こんなに楽しい本の紹介が出来たらなーと思うほど、読みやすい文体で書かれており、この作品を読んでみたいと感じさせてくれます。また、読んだことのある作品についても、このような見方があるのかと楽しむことも出来ます。
名作を1度は読んでみたいと思っている人は、まず本書を開いて気になる1冊を見つけてみてください。先に示した作品以外にもまだまだ名作が詰まっていますので、気になる作品の紹介だけを読んでみるのも良いと思いますよ。
第130回 新入生のみなさんにオススメ
図書館司書 北井 由香
私のオススメ
『大学1年生の歩き方』
トミヤマユキコ,清田隆之 著
左右社 2017年4月発行
新入生のみなさん、入学されてから3カ月が経ちましたが、大学生活はどうですか?楽しめている人もいれば、もしかしたら楽しめていない人もいるかもしれません。この本は、まさにその楽しめていない人に向けて書かれた本です。本書にこう書いてあります。「この本は、なんでも要領よくこなせるキラキラ学生は相手にしないというコンセプトで書かれています。わたしたちがこの本を届けたいのは、自分に自信がなく、1年生の終わりになってもまだ『大学に馴染めない』(中略)グーグルの検索窓に『大学 つまらない』とか入れてこっそり仲間を探しているような人にこそ、この本を読んでもらいたいのです。」(本文 p.165)
私が、この本を読んだ率直の感想は、「大学時代にこの本を読みたかった」です。大学時代にこの本を読んでいたら、大学生活でこれから起こり得ることが予測できただろうし、その起こった出来事に対してもっと冷静に対処出来たのではないかと思います。誤解のないように言っておきますが、私の大学生活は、「大学 つまらない」ではなく、その反対で「大学 めちゃくちゃ楽しい」でした。
しかし、めちゃくちゃ楽しい人にも悩みはあります。今になれば、何であんなことで悩んでいたのだろうと思いますが、その時は、とても苦しくて、ここから抜け出せるのだろうかと、ものすごく思い悩んでいた時期もありました。そんな訳で、「大学 つまらない」人にも「大学 楽しい」人にも読んで欲しい本です。
内容を少し紹介しますと、大学1年間を通して、誰にでも起こり得ることが4月から3月まで順に書いてあります。例えば、6月「入学マジックが消滅し、本当の大学生活がはじまる!」、8月「自由すぎる&長すぎる夏休みを謳歌する4つのポイント」、11月「祭りが苦手な人間は学園祭とどう付き合うべきか」、12月「クリぼっちは人間関係を見直すチャンス」等々、それぞれの月で、多くの学生が抱えるであろう悩みについて解決策?が書いてあります。
私は、最後まで読んでこう思いました。「みんな、同じようなことで悩むんだ。私だけじゃなかったんだ」今更安心しても仕方ありませんが、何だか安心しました。おすすめの1冊です。