私のオススメ本 

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第181回 幕末維新史に興味がある人にオススメ 


 おススメ本  松江キャンパス 管理課 枝野 宏貴

   私のオススメ
   『明治維新をとらえ直す 非「国民」的アプローチから再考する変革の姿』

   奈良勝司著 
       有志舎   2018年9月発行


  

   日本史を学んだことのある方は、「幕末」や「明治維新」というワードを聞いてどんなことをイメージするでしょうか? 開国や幕府の滅亡、そして今日のこの国の礎にもなった様々な改革…。他にも、坂本龍馬や西郷隆盛など、「志士」と呼ばれる人物を想像した方もいるかもしれません。彼らは、大河ドラマや小説、ゲームなど幅広いメディアで取り上げられ、身命を賭して時代の変革を担った英雄として描かれることも少なくありません。
   それらの世界の中では、「江戸時代=西洋化・近代化が為されていない前時代⇔明治時代=近代化を成し遂げた先進的な大変革の時代」という断絶された時代観が無意識のうちに当たり前の様に共有され、その変革に携わった英雄たち(往々にしてハンサムに描かれる)の心情に観客が同化し、感動や共感を呼び起こすための「癒し」のコンテンツとして、歴史は消費されています。
   明治維新150周年の年に発刊されたこの書籍は、そのような現状に疑問を呈すとともに、「私たちが生きている社会はどのようにして成り立ったのか」を明らかにするという歴史学本来の目的に改めて立ち返り、近世と近代との繋がりを意識しながら、今日の私たちにとって当たり前になりつつある明治維新のイメージを再考してみよう、という内容です。
  対象としては、幕末期〜明治維新期にかけての政治的事象が広く分析されていますが、明治維新によって「何が」近代化したのか、という視角に基づき、江戸時代の社会やそこで生きる人々の意識の構造分析に特に力が入れられています。明治維新は、近世/近代を分ける画期ではありますが、そこには断絶されたものと引き継がれていったものの両方が存在しており、決して何もかもが一新された訳ではなかったという主張が、先行研究の成果や史料の記述に基づきとても緻密に論じられていると感じました。
   専門書のため、一読しただけではなかなか理解しきれない部分もあるかと思いますが、読み応えがあり非常に興味深い内容となっています。学術的な視野が広がるだけでなく、「なぜ歴史を学ぶのか?」という問いを考える機会にもなると思いますので、日本史(特に近世史・近代史)に興味のある方にはぜひ読んでもらいたい一冊です。
 
 

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