バックナンバー第111回~第120回

第111回 スキマ時間に本を読みたい人におすすめ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 道山萌
  私のオススメ
  『すべて忘れてしまうから』

   燃え殻著
   新潮文庫 2022年7月発行


 「人生のほとんどの時間をままならないで過ごしてきた。」そんな著者が人生において忘れたくないと考える瞬間や感情をまとめた一冊です。私がこの本を読んでみて印象に残った一文を二つ紹介したいと思います。
 一つ目は、「ちゃんと飯を食ってますか。誰より長生きしてください。長生きって最大の復讐です。」この文章は「死にたい」と考える人に対して著者が送った言葉です。復讐とは何か考えてしまいますが、この文章を読んで復讐とはもっと単純なものなのかもしれません。
 二つ目は、「偉そうにするなよ、疲れるから。」この言葉は著者が祖父と最期に交わした言葉です。一見乱暴な言葉に見えるようですが、そこには祖父の経験と知識が存分に入った一言だと感じました。
 タイトルにはスキマ時間に本を読みたい人としましたが、この本はとても読みやすく読書初心者の方やいつも小説を読んでいる人など様々な人にぴったりの一冊です。

 

第112回 人間関係に悩んでいる人におすすめ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 生駒美怜
  私のオススメ
  『傲慢と善良』

   辻村深月著
   朝日新聞出版 2019年3月発行


 私が今月おすすめする本は辻村深月さんの「傲慢と善良」です。これは恋愛を軸としたミステリーなのですが、恋愛だけではでなく、結婚や友人関係、親子関係など様々な人間関係のグロくて、めんどくさくて、生々しい部分がたくさん描かれています。
 題名の「傲慢」「善良」は一見反対のように見えますが、一人の人間の中に矛盾することなく存在しています。現代人の中にはこの「傲慢」と「善良」が作り出す価値観に縛られ無意識のうちに苦しんでいる人も多くいるでしょう。しかし、話が進むにつれ、私も真実と似たようなところがあるかもしれないと思うようになり、少し嫌な気分になりました(いい意味で)。
 この作品を読むと自分の中にある無意識な傲慢さや善良さに気づかされ心が痛くなります(いい意味で)。また、とても繊細で見過ごしてしまいそうなもやもやを言語化してしまう辻村さんのすごさにも感動します。描かれている内容が鋭利すぎて、読んでいてつらくなることもあります(いい意味で)が、読んで後悔することはないと思うので是非読んでほしいです。

 

第113回 SFに出会いたいすべての人におすすめ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 嶋田光紗
  私のオススメ
  『100文字SF』

   北野勇作著
   早川書房 2020年6月発行

 「SFに出会いたいすべての人」と示しましたが、私自身があまりSFを読んでこなかったので具体的におすすめしたい人を挙げて紹介が書けないことをご容赦ください。とはいえこの本を誰かに読んでほしいと強く思ったこと、SFをあまり読まない私でもすごく惹きこまれた作品であるというのははっきりとお伝えさせていただきます。
 この作品はタイトル通りほぼ100文字で書かれた物語が1ページに収まっているという形式、これが200篇。200という数字にびっくりしたと共に、読み終わって最後のページには「二〇一五年十月より、著者のツイッターで発表されている『ほぼ百字小説』約二千篇のなかから、二百篇を精選して収録しました。」と書かれており、まだまだ膨大な世界が広がっていることに読み終わった瞬間わくわくしました。
 そんな中でもお気に入りだったのが133ページの「恐怖の異星生物から一刻も早く逃げねば。なのに、置いてきた猫が気になり探しに戻る。」から始まる物語。はじめ一文で想像できてくすっと笑ってしまいました。共感していただけたらこの主体が導くオチをぜひお手に取って読んでみてください。

 

第114回 不思議な短編を読みたい人におすすめ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 松田杏香
  私のオススメ
  『花火 ショートショート・セレクションⅠ』

   江坂遊著
   光文社 2016年8月発行

 「そう言うと、おっさんは鋭い嘴をしたしゃもに素早く近づいた。やにわに、ふところから火打ち石出しよると、かしっとしゃものしっぽに火い付けよった。そしたらどや、怪しくしゃものトサカが光ると、わっとその尾っぽから火が噴き出しよった。」(「花火」より引用)
 『花火』の中に集録されている「花火」。このお話は7ページで完結する物語です。 貴方は引用部分とタイトルから、「花火」をどのような物語だと思いましたか? 動物に火を付けているから、少し過激な本を想像した人。おっさんという危ない人物に出会ってしまうような、事件のお話を想像した人。
 さて、どんな物語なのか。興がそがれてもいけませんので、貴方自身で読んで確かめてみて下さい。
 私から言えることは一つだけです。『花火』に集録されているどのお話を読んだとしても、貴方はきっと予想外の結末に息をのむでしょう。

 

第115回 江戸時代にふれてみたい人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 佐藤綾
  私のオススメ
  『あきない世傳 金と銀』シリーズ(全15巻)

   髙田郁著
   角川春樹事務所 2016年2月-2024年3月発行
  

 このシリーズは、江戸時代享保期から始まります。元禄という絢爛豪華な時代が終わり、享保の改革によって質素倹約が奨励されていた時代です。現代で言うと、バブル崩壊後の不況に見舞われていた時と似通っており、そのような、物がさっぱり売れない受難の中で、主人公である幸は摂津の津門村に生を受けます。父から「商は詐なり」と教えられて育ったはずが、享保の大飢饉や家族との離別を経て、9歳で大坂天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ出されることが決まります。慣れない商家に加え、「一生、鍋の底を磨いて過ごす」女衆でありながら、番頭の治兵衛に才を認められ、徐々に商いに心を惹かれていきます。
 2023年にドラマ化しているため、知っている人はいるのではないでしょうか。私は江戸時代を舞台にした作品が好きなのですが、特に『あきない世傳 金と銀』は、教科書に載るような偉人や出来事をもとにしたものとは違い、江戸時代の庶民の世界を垣間見ることができるため、とても好きな作品です。幸は、相撲や歌舞伎、浄瑠璃の流行りや、服装、食事、唄、江戸と大阪の違いなどを見て商いに活かしていくのですが、そのような庶民だからこその視点が新鮮に感じます。私はこの作品を読んで江戸時代の庶民文化に興味を惹かれ、これをきっかけに卒業論文のテーマを考えました。そのくらい、私にとって大切な作品です。
 商い戦国時代と言われる中で「買うての幸い、売っての幸せ」を追い求めながら、幸は全力で商いに挑み、切り開いていきます。勉強することにだって一苦労しながら、周りの人々に支えられ人生を歩んでいきますが、結婚一つとっても紆余曲折あり、その他にも大不況や天災、病気にみまわれるなど波乱万丈な人生です。
 幸が商いについて真摯に悩み、考え、知恵を絞り、商人として人として育っていく作品です。そんな幸の商道をぜひ楽しんでください。

 

第116回 新感覚のホラー小説を読みたい人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 道山萌
  私のオススメ
  『かわいそ笑』

   梨著
   イースト・プレス 2022年8月発行
  

 ホラー小説といえばおばけが出てきて、不可解な出来事が起きてと言ったような流れの作品が一般的だと思います。
 今回は最近注目されている「モキュメンタリー」というジャンルの小説を紹介したいと思います。「モキュメンタリー」とはフィクションを実際に起きたドキュメンタリーのようにみせるもののことです。
この小説は、インターネット上にある掲示板で匿名を使ってやりとりをしている内容を中心に描かれています。インターネットとは誰でも利用可能で誰とでも繋がれる媒体です。そして、この物語はインターネットを舞台に描かれているというところが物語の肝となっています。読み始めは人事のように感じます。
 しかし、読み進めると不思議なことに、だんだん自分事のように感じてしまいます。最後の感想をどう感じるかも人それぞれですし、もしかしたら怖いという感情以外の感情が生まれてくるかもしれません。

 

第117回 犯罪者の家族も犯罪者なのか?!について考えたい人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 生駒美怜
  私のオススメ
  『手紙』

   東野圭吾著
   文藝春秋 2006年10月発行
  

 この本は、直貴の兄である剛志が強盗殺人を犯してしまうところから始まる。
 直貴は、学校でも、大学でも、社会人になってからも加害者の身内というレッテルが付き纏い、差別され、人生は狂い続ける。何もしていない直貴が苦しむのはあまりにも理不尽で、読んでいて辛かったが、ある登場人物の「犯罪者は自分の家族の社会性をも殺す覚悟を持たなくてはならない。我々は犯罪者にそう思い知らせるためにも君(直貴)のことを差別しなくてはならないんだよ。」という言葉に、犯罪に対する罰とは刑務所に服役することだけではなく、その犯した罪で身内も苦しむことなのだと思い知らされた。
 そんな直貴にも安らぎを与えてくれる家族ができる。直貴は、自分と同じように差別をされる家族を守るためにさまざまな選択を迫られるようになる。直貴は、自分の家族を守るためにどんな選択をしたのか?直貴が選択した道は正しかったのか?家族とは一体何なのか?そんなことを考えさせてくれる作品です。あなたならどんな選択をしますか?読んで選択をしてみてください。

第118回 心あたたまる話もミステリも好きだという人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 嶋田 光紗
  私のオススメ
  『世界でいちばん透きとおった物語』

   杉田光著
   新潮社 2023年5月発行
  

 有名ベストセラー作家である宮内彰吾が亡くなった。そんな宮内には愛人とその間にできた息子がおり、その息子が主人公である藤阪澄真である。  
 ある日、会ったことのない澄真の異母兄から1本の電話が入る。彼が言うには生前、宮内彰吾は遺作を遺して亡くなったらしい(・・・)。と言うのも作品があるわけではなく、あるのは『世界でいちばん透きとおった物語』と書かれた封筒だけ。校正等の打ち合わせの日程も予定帳にあるのに肝心の原稿だけが見当たらない。亡くなった校正者の母親と親交のあった編集者である霧子さんとともに、生前の父親と関わりのあった女性たちに話を聞きに行き、原稿を探していく。その過程で見えてくる父親の姿に惹かれたり疑念を抱いたり。
 さて、「世界でいちばん透きとおった物語」とはいったいどういったものなのでしょうか、本当に存在するのでしょうか。しかもミステリ作家の書く透きとおった物語。どんな物語か想像しながら読むのも良いかもしれません。
 ラストの「     」を読んだとき、きっと小説という枠を飛び越えて心打たれることでしょう。ぜひお手に取ってその目で確かめてみてください。

 

第119回 少し変わったミステリーを読みたい人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 松田 杏香
  私のオススメ
  『赤い指』

   東野圭吾著
   講談社 2009年8月発行
  

 もし、自分の家族がミスをしてしまったら、
もし、そのミスが取り返しのつかないものなら、貴方はどうしますか?
一人の息子を持つ昭夫は家に帰る途中、七歳の娘を探す一人の男性を見つける。 「心配して駅まで探しにくるのも当然だろう」と思うも、家に帰る頃にはすっかり忘れてしまった。 家に帰ると、異様に真っ暗な部屋。妻の八重子に声をかけると「庭を見て」と一言。 恐る恐る懐中電灯を付け、庭を見る。そこには黒いビニール袋があった。 八重子は告げる。袋の中身は知らない女の子の死体であると。 昭夫は、死体が帰宅途中に捜索されていた女の子であると気づく。 女の子を殺したのが息子であると分かった二人は、息子を守る為、偽装工作を始め――。
家族とは何なのか。「愛」とは何なのか。 そしてタイトルの真の意味は?
この作品は、犯人家族の視点と刑事の視点で進行していきます。 予想外の結末と、歪な家族の愛。
東野圭吾がおくる、様々な家族の「愛」の世界を是非体験してみて下さい。

 

第120回 再会したい誰かがいる人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 石田沙弥香
  私のオススメ
  『NO.6再会♯1』

   あさのあつこ著
   講談社 2025年5月発行
  

 NO.6シリーズ最終巻発売から14年。私が最終巻を読み終わってから7年。最終巻で誓った再会をようやく、果たしてもらえました。
 この作品はあさのあつこさん作の近未来SF『NO.6』の待望の続編です。いきなり続編を紹介してしまい申し訳ないのですが、今紹介しないでいつ紹介をするのか、という思いに駆られてしまいこの文章を書くに至りました。なんて言ったって今月は七夕、いわば再会を象徴するような日がある月ですから。ぜひ前作『NO.6』を読んでから、この『NO.6再会♯1』を読んでみてください。

 聖都市「NO.6」で安泰な将来を約束されたエリートとして育てられた主人公、紫苑。しかし12歳の誕生日にネズミと名乗る少年と出会ったことで紫苑の世界は変わってしまう。運命的な出会いから4年後、「NO.6」の本当の姿を知った彼らは「NO.6」と戦うことになる。戦いが終わると、ネズミは再会の誓いを残して紫苑の前から姿を消してしまう。それから2年。NO.6再建委員会の委員長となった紫苑は不安定な政情や得体のしれない無差別暗殺者に悩み、ネズミの存在を切望していた。そんな中、紫苑はネズミの気配をそばに感じる。

 今作は前作の要素を深堀していく点が多く、読み進めていく度その要素について深く考えてしまいます。前作で孤児を拾ったスラム暮らしのキャラクターの子育て。前作で崩壊した都市の再建をどう進めるのか。再会した紫苑とネズミのその先に待ち受けるものとは。 皆さんもぜひこの機会にこの少年たちの行く先を見届けていきませんか。