私のオススメ本
第186回 正義の味方が好きで、これからもそっちの側にいたいと思う人にオススメ
松江キャンパス 地域文化学科 小長谷 悠紀
私のオススメ
『フィラデルフィアの精神―グローバル市場に立ち向かう社会正義』
アラン・シュピオ著/橋本一径訳/嵩さやか監修
勁草書房 2019年6月発行
グローバルな市場主義のもと、日本ではいろんなものが安価で買えるようになっています。国産ニンニクの横に100円安い値札をつけた外国産のニンニクが並び、ほぼメイド・イン・ジャパンではないファスト・ファッションが季節ごとにセールをしています。あるいは、アフリカ産の薔薇の切り花が、〇〇モールのワゴンで1本百円とか。
どんなふうに生産・流通をおこなえば、そのような価格が実現できるのでしょう。その実現には、仕事熱心な人のアイディアや努力がさぞや積み重ねられてきたのだろうと思います。
けれど、お財布の味方にも見えるグローバルな市場主義というやつ、ホントのところは、正義の味方ではないことがわかってきました。つまり、もっと大局的に世界を見るならば。
この本のいう「フィラデルフィアの精神」とは、1944年に国際労働機関の目的についてフィラデルフィアで採択された「フィラデルフィア宣言」の考え方、姿勢のことです。それは、20世紀前半の30年におよんだ世界大戦Ⅰ・Ⅱの後、その痛みと教訓を知った人類がどのようにして後年の世界をつくっていくのかを構想したものでした。そこでの根本的な姿勢、とりわけ人間に対する考え方が、フィラデルフィアの精神です。
そのきわめてまっとうな社会正義の見地を確認しつつ、著者であるコレージュ・ド・フランスのシュピオ教授は、【今日台頭するグローバルな市場主義が、社会正義を二の次にして、資本・金融を拡大するための活動に邁進している状況】をつまびらかにしていきます。
そして、世界がフィラデルフィア精神に立ち戻ったならば、もっと違う方向でできることがあるではないかと、これから人類が築いていける将来のために、読者に問いかけています。
フィラデルフィア宣言が示されたのは、1944年。もうずいぶん昔のことです。ですが、同書を読んだら、皆さんは宣言が見ていたものに共感されることでしょう。
同時に、今日、かつてその宣言がまるでなされなかったかのように、フィラデルフィアの精神とは対極的な世界を拡大していっている「今日、世界を支配する/しつつある精神」の存在も、強く意識されることと思います。
※バックナンバーはこちらです