『界隈』15号表紙解説(校正前の原稿)
表紙は、本学メディアセンター服部四郎ウラル・アルタイ文庫蔵の木版本モンゴル語経典qutuγ-tu degedü altan gerel-tü erketü sudur-nuγud-un qaγan neretü yeke kölgen sudur(聖なる尊い金の光の力ある諸経の王という名の大乗経=『金光明最勝王経』)の表紙と冒頭部数葉である。10.5cm×51.5cm。224葉。『金光明最勝王経』は4世紀ごろに北インドで成立したとみられる大乗経典Suvarṇaprabhāsa(『金光明経』)の諸訳のひとつであり、原典、漢訳の他、ウイグル訳、チベット訳、モンゴル訳の存在が示すように、アジア各地に広く流行した。本経は、四天王をはじめとする諸天善神による国家鎮護を説く経典であるところから、為政者のための経典とも言われる。日本では『法華経』『仁王般若経』とともに護国三部経として信仰され、国分寺や四天王寺の建立や最勝会や放生会もこの経典の教えに基づいておこなわれた。モンゴル語訳は元朝期に現れたとされるが、現存する最古のものは、16世紀末のモンゴルにおける一大権力者であったアルタンの命によりチベット語から翻訳されたものである(コペンハーゲン王立図書館蔵)。本学所蔵の本経は、その奥書に翻訳・開版年次が明らかになっていないが、版式の特徴から清代の北京で版刻されたものであることは間違いない。服部は昭和初期にアルタイ諸語の研究のため中国東北地方に滞在したことがあるが、この時に北京で本経を入手したものと思われる。